top of page

ソロダンス作品

『i』

役者でないの新作『i』は、「痒み」をテーマとしたダンス作品です。出演は 役者でない 一人。タイトルの由来は英語で「かゆい・むずむずする」を表す「itch(イッチ)」の頭文字です。英語の「私」である「I」も意識しています。

アトピー性皮膚炎とアレルギー性皮膚炎をもって生まれた私にとって、痒みは生まれてからずっとある身体感覚でした。冬は乾燥で、夏は汗で皮膚をひっかきたくなります。アレルギー物質を含んだものを口に入れれば、口内や喉が歪むように感じ、摂取量が多くなるほど炎症になっていきます。対処法は塗り薬による対症療法が中心で、一生付き合うのが一般的。痒みは確実に、私の人生、私自身の一部なのです。

「一生かゆい」というのは少数派かもしれませんが、「かゆい」という感覚は誰しも身近なものでしょう。ともすれば怒りにも発展しうる危険な感覚ですが、痒みに関しては、患者自身でぬり薬を買う、または医者に診断してもらう、という最小単位での解決策しか論じられておらず、書籍の出版や講座の開講など、社会的に解決策を提案しようという動きにはなっていないように思います(本屋にアンガーマネジメントについての本が平積みされていても、痒みマネジメントの本が目立つところに置かれているのは見たことがありません)。それは痒みが、「ひっかく」という自傷行為にはつながっても、他者への攻撃にはなりにくいからではないでしょうか。

危険だが個人的な感覚である痒み。それに悩まされる時の自分のは「はたから見れば滑稽だろう」とよく思っていました。必死に紛らわすために行う動きは奇妙で、かきむしる様は非合理的ながら人間的でもあります。そこから派生した動きはダンスになるのではないか?と常々考えていました。

今回作品化するにあたって行ったのは「想像による痒みの拡張」です。「かゆい」とは基本的に皮膚のみに感じるものですが、「筋肉が痒ければどんな動きになるか?骨の中が痒ければ?内臓なら?」と想像して動きを作り出しています。そのことを思えば、やはり自分が作る作品はどこか「演劇的」です。長らく一人芝居に携わってきた者の宿命かもしれません。

「かゆい」という個人的な感覚から出発する「ダンス」。身体の異常、それを引きをこすバックグラウンドは何なのか、など、様々に思考してもらえる作品を目指しております。個人での行動が多くなり、孤独を感じやすい社会です。また、アトピー性皮膚炎は衛生管理が行き過ぎた結果患者数が増加しているとの説があることから「文明病」とも言われています。今、痒みからダンスを作ることは、時代に即しているとも言えはしないか。蚊に刺されたことのないA型の方でも、花粉症でない人でも。もちろんアトピー性皮膚炎やアレルギー性皮膚炎の無い方でも、舞台上でひとり七転八倒する様には、何か感じてもらえものがあると信じています。

bottom of page